Cassis



あれはいつだったか。
「私達、付き合いましょう?」
告白ではなかった。
ずっと一緒に居る。
そう云う、約束の様な気がした。
其の時、私達は恋人同士になった。
二人で一緒に出掛けるのを、デートだと云ったり。
手を繋いだり。
キスをしたり。
とても楽しい日々だった。
初めての恋人。
初めてのキス。
そして、初めて夜を共にした。
倖せだった。
そう・・・倖せだった筈。
でも。
君は泪を流す事が多くなった。
私は独りが怖くなった。
誰かに触れて欲しくて、寒くて、凍えそうだった。
自分の躰を抱き締め、独りの時間を過ごした。
今まではそうではなかったのに。
君に、私に、頼らなくては生きられなくなっていた。
・・・彼女には妹が居る。
血の繋がった本当の妹。
私達三人は幼い頃、あの公園で出逢った。
私。
咲耶くん。
そして、衛くん。
「ねえ・・・・・・一緒に遊んで・・・?」
スカートの端を強く握って、私は二人に問う。
顔が熱かった。
怖かった。
でも、二人はにっこりと笑った。
「うんっ、いいよ!」
「わたし、さくやっていうの。この子はまもる。あなたは?」
さくやちゃんは首をかたむけ、私の名前を訊いた。
「わたしは、ちか・・・・・・ちかげ・・・・・・」
ちかが名前を云うと、まもるちゃんは両手の平を合わせてパチンと叩く。
その音にビックリして、ちかは小さく躰を跳ねさせた。
「ちかちゃんだね!ボクのことは『まも』って呼んでー」
まもちゃん。
そして、さくやちゃん。
臆病で、人見知りの激しい私の、初めての友達だった。
衛くんは、咲耶くんにとても懐いていた。
羨ましかった。
誰かを頼る事が出来る衛くんが。
誰かに頼ってもらえる咲耶くんが。
私には、出来ない。
そんな私に、咲耶くんは云った。
「私は千影に頼られないなんて思ってないわ。頼りたいとも思っていない」
嬉しそうに微笑む咲耶くん。
其の言葉に、当時の私は微妙な心境にしかなれなかった。
「私達は一人でも生きていける。だけど、二人ならもっと強くなれるんじゃないかしら」
でも。
私は。
私達は弱くなってしまった。
愛とは、そう云うモノなのか・・・?
違う。
私は知っている。
愛と云うモノによって、私は強くなっていた。
だから、今回も生きているんだ。
誰か教えてくれ。
私は弱い彼女を見たくないんだ。
弱くなった自分を見せたくないんだ。
そんな気持ちは自然と表面に出てしまっていたようだ。
私と咲耶くんは徐々に疎遠になった。
日常的な会話はするものの、今までとは明確に違った。
「千影、ラブよっ」
「私の事、好き?」
「愛してるわ、千影・・・」
そんな言葉は姿を見せなくなっていた。
寂しい様な、安堵する様な。
やがて私は気付いた。
嗚呼・・・此れが失恋か・・・
云い様の無い喪失感。
其れと同時に、ある感情を見付けた。
愛情と云う名の強い感情の影に隠れてしまっていた、大切な感情。
とてもとても、大切で掛け替えの無い友達だと云う事。
咲耶くんも、衛くんも・・・
彼女達を守りたい。
倖せであって欲しい。
・・・そうか。
私は、其の為に生まれて来たのかもしれない。
二人が今のままでいてくれるのなら。
私の愛など、犠牲にしても良い。
もしも二人が私の事を嫌っても。
忘れてしまっても。
傷付かないで、いてくれるなら・・・
神よ。
幾世も呪い続けてきたあなたに、初めて願おう。
私のこの想いを封じ込めてくれ。
そして、私は二人を守り続ける。
其の役目は神であろうと、決して譲らない。
邪魔する者は、消し去ってやる。
だから。
どうか・・・



FIN.


     
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