七月八日



君と別れて、二年が経つね。
私は何故か泪が出なくて、でもとても悲しかった。
君の泪を見たくなくて。
君は泪を見せなくて。
私達の間には不可視の泪が流れて溝を作っていた。
最初に避け始めたのは君からだったのだろうか。
それとも・・・





・・・いつしか私は全てを恨んだ。
自分以外のものに君を取られてしまった様な錯覚を覚えていた。
出逢った世界も、君も。
全てが恨めしかった。
出逢ってしまった全ての喜びが、悲しみが憎かった。
消えてしまえば良いとすら思った。
束の間の夢の様に。
そうすれば、忘れられる。
何もかも。
だが、其れは叶わぬ事だった。
自分から逃れる事など出来ないのだから。
私は此の脆弱な心で、悲しみに立ち向かわなければならない事を知った。
其れは絶望だった。
君がいない。
たった一つの事実は私には重過ぎた。
其れでも時は流れていく。
悲しみには慣れる事が出来た。
でも、君を求める心は何一つ変わらない。
ただ・・・寂しい。
君の見せてくれた微笑み。
君が触れてくれた温もり。
心も。
躰も。
ただ、寂しい。





・・・君は今は海の向こうにいるね。
君が追いかけた夢には近付いているかな。
姉妹達が君を見送りに行っている時、私は君に逢いに行く事は出来なかった。
君はどう思っただろうか。
逢いたくなかった訳じゃない。
離れ離れになるのが嫌だったんじゃない。
君が、私の様に、私を憎んでいるんじゃないかと云う事が怖かった。
君の瞳が私を見る事も、君の瞳が私を見ない事も、私には耐えられないだろう。
でも・・・
でも。
逢えば良かった。
君を憎んだ時、私は自分自身を何よりも嫌いになった。
其れでも、今程後悔した事は無い。





・・・あの頃に戻れるなんて思っていない。
そんな事、分かっている。
其れでも願った。
いつか君はあの家に戻ってくるから。
また笑ってくれたら・・・なんて。





・・・どれだけ時は過ぎただろうか。
君は一週間だけあの家に帰ってきた。
私の知らない、誰かと一緒に。
仲良く笑う二人を遠目に、私は泪を流した。
嗚呼、良かった。
そう思ったのは何故だろうか。
私が君を求める様に、君が私を求めていなくて良かった。
あんな悲しみを君が感じていなくて良かった。
君は今、倖せなんだ。
私の隣で君が笑ってくれなくても良かったんだ。
君が倖せであるなら。
君の笑顔をもう一度見れるなら。
嗚呼、此れで・・・
これで、私は・・・





死ぬ事が出来る。



FIN.


     
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