嫉妬



貴女を愛しています。
ずっと、ずっと、貴女が好きでした。
貴女は何処を見ていますか?
貴女は誰を見ていますか?
貴女は私を見ていない。
私ではないあの子を見てる。
貴女の瞳の先に移る人間が『他人』だったなら、どれだけ楽だった事か。
あの子は私達と同じ、家族。
貴女にとって、同じ家族なのに。
私とあの子は何処が違いますか?
あの子は私以上に、貴女を必要としていますか?
私は誰よりも貴女を必要としている。
なのに、貴女は私を誰よりも必要とはしてくれない。
貴女の隣にはあの子が居る。
貴女の瞳にはあの子しか映っていない。
こんなに好きなのに。
こんなにも求めているのに。
神様は気紛れに残酷で。
私を貴女の家族として生を与えた。
手が届きそうなのに届かないもどかしさに狂いそうになる。
妬ける感情の生み出した蜃気楼に、貴女を何度も見失う。
妄想と迷妄が貴女の笑顔を写し出しては消える。
一度だけ、貴女に触れたあの時。
抱き締められたくて、抱き締めた、あの時。
貴女はどんな顔をしていた?
困っていた?
微笑んでいた?
思い出せない。
片方の鏡には、微笑みが。
片方の鏡には、困惑が。
私の心の中の合わせ鏡が、貴女の表情を彼方へと持って行ってしまう。
幾度も幾度も、二つの表情を交互に。
貴女の表情は幾つも見て来ていたのに。
近くに居たから。
でも、其れは貴女の隣ではない。
貴女の表情はどれもとても魅力的だった。
思えば、其の沢山の表情のほとんどはあの子によって齎された物だった。
私は唯、願った。
『微笑んでいて欲しい』
でも其れは独占欲でしかなくて。
もしも、私が貴女と結ばれる事があったとしても、其れは私の好きな貴女ではない。
私の好きな貴女は、他でもない。
『あの子の前にいる貴女』だったのだから。
私が大好きな貴女と結ばれるにはまず、私はあの子の代わりにならなければいけなかった。
果たして其れは出来る事なのですか?
いや、出来ない。
貴女はあの子に、生まれた時から惹かれているから。
あの子が居なければ。
何度そう考えた事か。
でも、私はあの子を嫌いなんじゃない。
嫉妬しているだけ。
憎しみを抱く程に、羨ましいだけ。
じゃあ、どうすれば良い?
あの子を消せば良い?
でも。
貴女は悲しむだろう。
貴女は恨むだろう。
そんな事、望んでなんかいない。
私は、貴女には唯の貴女で居て欲しいから。
だから、私は一つの結論に辿り着いた。
『私が消えれば良い』
でもね。
貴女は優しいから。
きっと、其れでも悲しんでしまう。
だから。
私は貴女から離れましょう。
困らせて。
嫌われて。
そして、消えます。
でも、私は臆病だから。
貴女から離れるなんて、きっと出来ないから。
だから、出来れば貴女の手で私を追い詰めて欲しい。
生と云う名の大地の果ての、絶壁まで。



Fin.


     
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送