し、み、め、ゆ、き、さ、あ



安らかに眠る貴女は、どんな夢を見ていますか?
目の前にある貴女の寝顔はとても綺麗で、静かに、静かに流れる時間がとても心地良い。
優しく淡い一瞬は、まるで窓の外の粉雪の様に舞っては消える。
貴女が目覚めるまで待っていて良いですか?
可憐は鞠絵ちゃんのベッドの上のシーツに触れる。
温かい。
指の先が。
心の中が。
何処からともなく来る懐かしさと安心から、私は息を吐く。
鞠絵ちゃんの温もりを抱き締める様に、可憐はシーツの端を握り締めた。
ベッドに頬を寄せ、瞳を閉じる。
良い、匂い。
鞠絵ちゃんの匂いがする。
可憐はそっと、顔を伏せた。
そして。
静かで短い静寂。
可憐は瞳をゆっくりと開く。
・・・いけない。
どうやら、少し眠ってしまったみたいだ。
「おはようございます、可憐ちゃん」
霞む視界と意識の中、聲が聞こえる。
可憐の大好きな声。
可憐の大好きな人。
ベッドの上で微笑む鞠絵ちゃんは、やっぱり愛しかった。
可憐も其の笑顔を真似してみる。
ちゃんと出来ているだろうか。
「おはようございます、鞠絵ちゃん」
鞠絵ちゃんは頷く。
「疲れてるみたいですね?」
そう云われて気付く。
何だか躰がだるい。
思えば、少し長い間寝てなかった様な気がする。
「うん、可憐、ちょっと寝不足かも・・・」
「ちゃんと休まないとダメですよ?」
心配そうに顔を覗きながら、鞠絵ちゃんは云う。
何となく、心配してくれるのが嬉しくて、無理しそうになる。
でも、やっぱり疲れちゃった。
「もう少し、此処で休ませてもらっても良いですか?」
甘えるのは好き。
鞠絵ちゃんは優しいから。
溶ける様にすがって、離れたくない。
「はい、どうぞ」
鞠絵ちゃんは少し向こうにずれ、ベッドに空間を空ける。
可憐は鞠絵ちゃんの瞳を見つめる。
鞠絵ちゃんも静かに可憐を見ていた。
眠りに就く前に、もう少しだけ甘えたい。
「あの・・・」
鞠絵ちゃんは首を小さく横に傾げる。
肩から前に零れる髪が艶やかで綺麗だった。
可憐は一度だけ胸を押さえて息を吸った。
「キス、しても良いですか?」
顔が熱くなる。
鼓動が乱れる。
恥ずかしい。
でも、鞠絵ちゃんは優しく微笑んでいた。
「一度だけ、ですよ?」
鞠絵ちゃんは微笑のままに、目を瞑った。
拒否されなかった事に、可憐は少し驚いた。
鞠絵ちゃんの薄紅色の口唇を見つめると、鼓動が高鳴った。
可憐はゆっくりと、鞠絵ちゃんに顔を近付ける。
近付くごとに、心臓の音が聞こえてしまいそうにすら思えた。
口唇と口唇が触れ合う寸前に、可憐は瞳を閉じる。
柔らかい感触。
張り裂けそうな鼓動に思わず胸を押さえると、鞠絵ちゃんは可憐の躰を抱き寄せた。
思わずバランスを失い、鞠絵ちゃんの胸に身を預ける。
「ま、鞠絵ちゃん・・・」
口唇が離れると、思わず鞠絵ちゃんの名を呼ぶ。
鞠絵ちゃんは少し頬を朱に染めながら俯き、可憐の頭を撫でた。
あまりの愛しさに、胸が苦しく、切なくなる。
ずっと此のままでいたい。
でも、そんな事が叶う事はないから。
可憐は自分から躰を離す。
「あ、ありがとうございます・・・」
可憐は顔を伏せたくなる。
泣きそう。
「どういたしまして」
鞠絵ちゃんは可憐が憧れている人の一人。
そして、可憐の大好きな人。
可憐は躰に残った温もりを抱き締める。
離れてしまわぬ様に。
無くならない様に。
「さて、眠りましょう?」
鞠絵ちゃんが可憐の頬に触れる。
可憐は頷く。
「おやすみなさい、可憐ちゃん」
「おやすみなさい、鞠絵ちゃん」
二人で挨拶を交わす。
そして、可憐は再び瞳を静かに閉じた。
もしも、此の時が泡沫の夢であっても良い。
やがて辿り着く約束の地で、再び貴女と出逢えるから。
貴女と出逢えて本当に良かった。



Fin.


     
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送