2004/01/29 |
気紛れな天使 |
無性に、しょっぱい物が食べたい。 私は甘い物が、大好きとまで云わないでも、好きだ。 逆に、しょっぱい物は苦手だ。 だけど今はしょっぱい物が食べたい。 私には時々・・・いや、周期的にこんな時がある。 ホルモンバランスが崩れて味覚が変わっているのかもしれない。 まあ、理由は明らか・・・だけど。 今は別にそう云う訳じゃない。 ただ、漠然と、しょっぱさに飢えてる。 メカ鈴凛の簡単な整備を終わらせた、ドライバーのグリップからプラスの軸を外す。 マイナスの軸と差し換えて固定すると、私は其れをメカ鈴凛の傍らに置き、立ち上がった。 こんな時の為にラボの片隅に置いておいた買い物袋を漁る。 其の中からお煎餅二枚と、のりしおのポテトチップスを手に取り、ソファに寝転んだ。 甘い、甘過ぎる恋の味。 そんな甘さを紛らわせる為に、お煎餅とポテトチップスを食べる。 まるで帰依するかのように。 お煎餅を良く噛みもしないで飲み込んだ所為で、咽喉に少しの痛みを感じた。 醤油味で、胡麻の入ったお煎餅。 ずっと昔から、小さい頃から食べている物。 ・・・あ。 溢れてきた泪を、醤油やのりや塩で塗れた親指と人差し指を避けて、中指で拭う。 躰をモゾモゾと動かし、うつ伏せになる。 顔の下にクッションを置いて、其れを枕代わりにした。 顔は横を向かせる。 ラボの中央の大きな台に横になっているのは、仰向けになっているメカ鈴凛。 天井から吊り下がっている電源からコードが二本繋がっている。 メカ鈴凛の周りに散らばった、内部の蓋と擬似の皮膚。 気紛れに、中指を舐めた。 ・・・しょっぱい。 液体なのに渇きを齎すもの。 思い出したように咽喉がヒリヒリと渇きを訴えて来る。 上半身だけ起こし、テーブルの上に置いてあったティーカップの中の液体を口に含む。 注がれているのは、とっくに冷めてしまった甘いロイヤルミルクティー。 甘さを紛らわす為にしょっぱさを求めたのに、甘さに癒されている自分がいる。 気紛れな欲求。 統一感の無い欠如。 誤魔化して、満たされて・・・飢えて。 飢えさせているのって、私自身じゃないか。 私は再びソファに躰を横にする。 自分で勝手に飢えて、満たして。 其れで、本当に満たされているなんて、云えないか・・・ 自己満足ってやっぱり見っとも無いかな。 ・・・自己って、何だろう。 私は何処から何処までが私なのかな。 あの子は・・・私? 私は自分の手を見つめた。 汚れてて、乾燥していて、温かい。 そして、先程拭った泪で、其れを舐めた時の唾液で、濡れている。 目の前の私には、其れは持ち得ない。 そう・・・此れが、私。 ・・・気紛れって、気が紛れるって言葉と漢字が似てる。 だけど意味は違うから、両立したら、大切な物を沢山見落としそう。 でも、多分其れは、今の私なんだろうな。 ソファに仰向けに躰を沈め、天井を見つめる。 オイルで汚れた高い天井が見える。 だけど・・・ だけど、空は見えない。 未来も・・・見えない。 確かなのは舌に残る、痺れる様な感覚。 其れが、私が依存する感情なのかもしれない・・・ 私はゆっくりと立ち上がった。 [気紛れ:気が変わりやすい事。其の時々の気分で物事を行う事] [気が紛れる:ある事に気を取られて、他の事を一時忘れる] FIN |
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