1月23日

SAYONARA 【咲耶×千影】



あの森で交わした約束は、黒い安息でしか無い。

そう云ったのは貴女でしょ?

でも私は信じないから。

貴女の其の言葉を、信じないから。

代わりに、私は信じるモノがある。

湖の上で月星に見守られながら交わした口付け。

指を絡ませ、指を濡らし合い、指で触れ合う。

躰が憶えている感覚。

忘れられない感覚。

忘れられない事、如何すれば忘れる事が出来る?

夜が明けた時、もう月は見えなくなったけど、貴女は居た。

私は言葉も無く、口付けをした。

眠りましょう、このまま永遠に。

そう云った私に、貴女は微笑みかけた。

貴女はくれる。

其の高貴な愛を。

私は見つけ出した。

其の貴い愛を。

見つめ合った一瞬、私は永遠を感じた。

霞む意識の中、口付けを交わす。

何度目かなんて、もう憶えていない。

もう朝がやってくる。

貴女を私から奪い去っていく朝が来る。

私は貴女を抱き締める。

貴女は居る。

確かに、居た。

けど、今は居ない。

夢は不完全で、曖昧で、儚くて、一時の終わりのあるモノ。

だけど、愛する事は終わりの無い完全なモノ

夢は消えても愛は消えない。

ほら、今でもこの胸に愛は残っているから。

今すぐに、夢の続きを見せて。

一時の夢を再び始めましょう。

お願いだから、もう一度だけ。

貴女は葬送行進曲を望んでいるのだろうけれども、私は歌わない。

私が歌うのは狂詩曲。

永遠の自由と、永久の愛。

また会えるなんて思わないけど。

もう会えないなんて信じないけど。

私は歌い続ける。

忘れられない・・・忘れる事の出来ない狂詩曲を。

再び始まる夢を願いながら、歌い続ける。





『さようなら』





1月19日

Platonic Love 【千影×衛】



今宵は・・・満月か・・・

こんな夜は血が騒ぎ蠢く。

君を手に入れろと、君を壊せと、躰の奥から囁き掛ける。

君は誰を愛している?

おそらく私ではなく、そして私の中で最も尊敬する者。

そうか・・・彼女か・・・

私は君を、最も興味のある君を手に入れたい。

だが、君は望んでいるか?

彼女は望むか?

・・・いや、違う。

人間が有する人形は一つで充分だ。

君には彼女が、彼女には君が、最もお気に入りの人形として存在するのだろう。

私は既に人形を有している。

其れは古く、脆く、儚く、曖昧で不完全な人形。

私の中だけに存在し、消して消せない存在。

しかし、私は其れを否定している。

・・・違うな。

其れから、逃げている。

私は常に完全なる者を求めている。

其れでも、私の中の私が古い人形を求めていたとしても、私は求めていない。

其れは、最も尊敬している彼女でもない。

求めているのは君だ。

未熟な躰、不安定な精神、下らない理性、其れを押し潰す劣等感。

そして、誰にでも降り注ぐ事が可能な愛情。

君は不完全であり、完全だ。

私の求めている者であり、必要ではない者。

人間の全てはその者の見た物、聞いた物、感じた物だ。

絶対矛盾の世界であろうと、其の者が肯定するのならば当然な世界となる。

逆に、完全な物であろうと、完全を拒む者からは拒絶の対象である。

私が求める者は、不完全な物。

君は完全なる失敗作だ。

さあ、手を取るんだ。

甘美な世界で、一生と永遠の差を見せてあげよう。



幾ら純粋で透き通った物も、積み重なればやがて濁る。

完全なる透明など無い。

完全な物など存在しない。

存在してはいけない。

純粋すぎる其れは、多くの物を手に入れられるだろう。

しかし、逆に其の他の全ての物に破滅を導くだろう。

此の世に生を受けたのと同時に死が待っているのと同様に。





1月17日

光の季節 【千影×咲耶】



夢は忘れる為に見る。

そう聞いた事がある。

だから私は、貴女の夢を見る度に、不安に思う。

ある日、私の傍から貴女が去っていったら、やがて私は貴女を忘れてしまうのではないか?

寧ろ、そう考えている今こそが夢で、目が覚めたら貴女はもう居ないのでは無いだろうか?

もしもそうだとしたら、私は貴女を忘れてしまっているのだろうか?

最近の私はおかしい・・・悪い方向へしか物事が考えられなくなっている。

昔はこうでは無かった。

十人も目が離せないほど心配な妹達がいるから、自分だけはしっかりしなければならない。

そう考えていた筈だ。

しかし、貴女だけは違った。

私よりも年下の筈なのに、私と同じ・・・いや、其れ以上の事を考え、行動していた。

どんな時でも微笑みを絶やさないように耐え、私の心は今にも壊れてしまいそうだった

そんな私を貴女は何時も陰で助けてくれた。

でも、貴女の行動は他の妹達には理解されていない。

それが余計に自分に負い目を感じさせた。





其の日、私は夢を見た。

シンデレラの夢。

其のシンデレラは私だった。

でも、私の視点はどの人物でも無く、空の遥か高みから見つめていた。

鳴り響く十二時の鐘の音。

シンデレラは、城門から外へ続く階段の途中で立ち止まった。

そして、其処で徐にガラスの靴の片方を脱ぎ捨てた。

シンデレラはまた、走り出した。

私は、城から誰かが追いかけてくるのが見えた。

其れが誰かを確かめようとした時、十二回目の鐘が鳴り、私は夢から覚めた。





次の日、私は貴女に訊いた。

何故何時もそんなに落ち着いているの?

何時も何を考えているの?

其れは、私には・・・教えてくれないの?

沢山の疑問符達。

でも、訊きたいのはそうじゃない。

貴女は何時かは、私の傍から離れていってしまうの?

最後の最後に本当に訊きたい事が出てきた。

其処で疑問符達の行進は止まった。

貴女は答える。

私は君からは離れては行かない。

しかし、君は私に別れを告げる時が来るだろう。

君が君である限り・・・・・・・・・・・・





其の日もまた、私は夢を見た。

貴女の夢。

貴女と過ごした思い出。

楽しかった事。

悲しかった事。

嬉しかった事。

其れは、今まで感じた物全て。

しかし、徐々に其れは霞んでいった。

其処へ、貴女が現れた。

薄れて行く思い出と、目の前に現れた貴女。

まるで思いでが映画のスクリーンのように、平面的な物に感じてしまう。

貴女は云う。

私は君の道の先を永遠に照らし続けてあげよう。

その代わり、過去を捨てて私を愛して欲しい。

そして、君も永遠に私から離れないと誓って欲しい。

私は答えた。

貴女が望むのなら、私は何でもするわ。

すると、幾つのも時と記憶が重なり、頭の中を巡って行く。

貴女は私を抱き締めた。

私は目の前が光で包まれていくのを感じた。

それはまるで、貴女の愛が私を包んでいるのと同じように、私を包んだ。

私は、今まで歩んできた道に別れを告げた。





私は夢を見た。

塵捨て場に、捨てられていた。

私は起き上がろうとして、右腕を動かした。

いや、動かそうとした。

実際には其れは動かない。

当たり前だ。

そんな物、私には無かったのだから。

其処へ、二人の少女が近付いてきた。

ツインテールの少女と、紫の瞳を持った少女。

其の娘達は『咲耶』と『千影』と云う名前を持っていた。

咲耶は私を見付けると、私拾って、千影に見せた。

ねえ見て、ちかげ。此のお人形私に似てるね!

そう云うと千影は、そうだね、と一言だけ云った。

でも、此のお人形さん、右腕が無いね。痛くないのかな?

咲耶の言葉に千影が答えた。

其の娘は生まれた時から腕は無かったんだよ。

そう云った。

生まれた時?

私は何時生まれたの?

去年?昨日?それとも、先刻?

家に持って帰ってあげると、其の娘も喜ぶよ。

千影は不思議な笑みを浮かべてそう云った。

私は、咲耶の所持する人形になった。





私は夢を見た。

私と貴女と、十人の妹達を見守る夢。

いや、此れは記憶。

捨てた道に置かれていた、過去の出来事。

もう戻れ無い其処で微笑っている自分を、羨ましく思ってしまう。

私は何故望んでしまうのだろう?

もう一度其処に戻りたい、と。

夢は忘れる為に見る。

其の言葉を思い出した。

そう教えて来たのは貴女。

嫌だ・・・忘れたくない。

無くしたくない。

戻りたい。

嫌だ・・・嫌だ・・・





私は夢を見た。

どんな夢だったかは全く思い出せない。

ただ、哀しい話だった。

他の誰に対してではなく、私だけが見る事の出来る夢だったような気がする。

千影に相談してみよう。

そう思い、私は部屋を出た。










其の部屋のタンスの上には、腕の取れたツインテールの女の子の人形があった。





1月8日

君を壊したい 【千影×四葉】



君に触れていたい、壊れるまで。

君を抱き締めたい、壊れるまで。

君を愛したい、壊れるまで。

君は人間が一人も足を踏み入れた事の無い森の奥の湖のように純粋で、汚れが無い。

だから、君の純粋さは私の傷に痛く染みて、抉っていく。

そして同時に、私は癒されている。

私の心を洗っていく君を壊したい。

水に波紋を起こして、君の清らかさを壊したい。

人形のようになるまで、壊し尽くして・・・

そして、私のモノにしたい。

そうすれば、私は彼女を愛せるだろう。

彼女は私を愛する事は無いだろう。

・・・私は周囲に笑顔を振り撒く君が嫌いだ。

君を独占したいんだ。

鎖に繋いで、全身を棘で雁字搦めにしてしまいたい。

其の二つの目を塞いで、全てを見えないようにしてしまいたい。

口を縫い合わせて、喋れなくさせたい。

記憶を消し去り、私以外の事を全て忘れさせてやりたい。

二度と笑顔を他の者に見せないように、君を壊したい。

望んでいる事は、全て何時でも可能な事だ。

しかし、実行しない。

実行は出来ない。

私は君の笑顔も好きなんだ。

他の者に向けられないようにしても、私にすら向けてくれなくなったら、意味が無い。

君の全てを受け入れる事は、私には重すぎる。

そんな勇気、私には無い。

そんな勇気など、私には要らない。

でも・・・十二分の一の笑顔では満足出来ない。

アイが足りない・・・



―――――壊れているのは何方だろう・・・?





12月26日

REVERSE STRENGTH†REVERSE TEMPERANCE
 【千影】



また・・・守れなかった。

また一人、愛しい者が命の焔を失った。

前世でもそうだったな・・・

一人が死ぬと、次々と悲しむ暇も無く他の者も命を失っていった。

そして、十一人の愛しい者達が死んだ後も、私だけは其処へ行けない。

皮肉なものだ。

私達がこの世で受けた、幸福だった生も、もう少しで尽きるのか?

・・・幸福?

フフッ・・・如何だろうね。

現在は絶望的な不幸だ。

そもそも、倖せとは何だ?

結果か?

状態か?

・・・どちらであったとしても、どちらにも当てはまらない。

倖せが結果であるなら、その結果であったからこそ、今を不幸だと感じている。

なら、出逢わないほうが倖せだったのか?

出逢わない事で、出逢った事による倖せは訪れなかっただろうがな。

では、状態?

・・・なら今の状態は幸福か?

クククッ・・・愛しい者達の内、誰が死ぬかも分からないのに?

・・・冗談じゃない。

過去が幸福であれ、そうでなくとも、現在は不幸だ。

継続しない幸福に何の意味がある?

持続させてこそ意味があるのだろう?

何にせよ、既に幸福は藻屑となり、消えていった。

再びこの手に舞い戻ってくる事は無いだろう。

そう、今生でも・・・来世でも・・・

永遠に・・・





12月24日

PRIESTESS†EMPRESS
【千影×咲耶】



自分と対等の存在。

それでも、住む世界の違う人間。

それが・・・咲耶くんだった。

十一個の魂が再び集まった中で、彼女は一際輝いていた。

私は、その魂達の住む世界へ行き、彼女達を見守る事にした。

最初は、そうだった。

しかし、何時からか彼女の方が私を見守っていた。

私はそんな彼女に云いようの無い感情を憶えた。

見守られるのが嫌な訳ではないが、私が彼女達を守るとある人と誓ったので、その立場に納得出来なかった。

其れゆえに、私は彼女を同等の立場へ吊り上げる為に真実を告げた。

私が十一つの魂を見守らなければならない運命にある、と。

君は私と一緒に残る魂の運命を導かないか、と。

そう云った私に彼女はこう云った。

『お断りするわ。運命?そんな物、自分で決めるのよ』

私は怒りに手が震えた。

其れと同時に、尊敬もした。

彼女は運命を否定している?

なら、運命の下に生きている私は何なんだ?

おそらく、私は彼女を愛したのだろう。

その時、その瞬間に。

今、彼女は私の代わりに十人の妹達を見守ってくれているだろうか?

私はもう、あの世界には帰れないけど・・・

彼女は私の片割れだ。

だから、信じられる。

任せられる。

私の使命を・・・





12月21日

REVERSE EMPEROR†FORTUNE
 【千影×四葉&衛×四葉】



「四葉ちゃん・・・起きてる?」

「起きてますよ」

「今日は如何したの?」

「・・・何がデスか?」

「何時もは千影ちゃんと・・・その・・・一緒に寝てるじゃない?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「だ、だから・・・さ」

「・・・千影チャマは・・・四葉の事が嫌いなんデス」

「・・・え?」

「四葉の事、煩い女の子だって思ってるんデス」

「・・・何か云われたの?」

「ハイ・・・あまり、私に執着しない方が良い・・・って・・・」

「ほ、本当に・・・?」

「四葉の云ってる事、嘘だと思いますか?」

「そ、それは・・・」

「良いんデスよ。日本に来て、家族が増えたから浮かれていたって・・・分かってるもん」

「違うよ・・・・・・それは・・・違うと思う」

「何でデスか?」

「ボクだって四葉ちゃん達が来た時は浮かれてたよ。勿論、千影ちゃんも・・・嬉しかったに決まってる」

「・・・・・・そう思いますか?」

「うん」

「ありがとう・・・ございます」

「・・・・・・・・・うん」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ねえ、四葉ちゃん?」

「ハイ?」

「千影ちゃんの事嫌いなの?」

「そっ、そんな訳ありません!」

「うん・・・そうだよね。だったらさ、千影ちゃんも四葉ちゃんの事、好きだと思うけど」

「千影チャマが四葉の事を・・・?」

「そうだよ。あの千影ちゃんが四葉ちゃんの気持ちに気付いてない筈は無いよ」

「あ、あはは、そうデスよね・・・」

「千影ちゃんはちゃんと応えてくれてるよ、四葉ちゃんの気持ちに・・・」

「・・・・・・うん」

「だからこそ・・・四葉ちゃんが好きだから、そんな事云ったんだよ。絶対」

「・・・如何して・・・そう云う事、云ってくれるんデスか?」

「千影ちゃんは、四葉ちゃんが自分に甘えてばっかりじゃいけない、と思ったからとか」

「いえ、そうじゃなくて・・・」

「・・・え?」

「如何して、まもチャマは四葉の事慰めてくれるんデスか?」

「如何して・・・って・・・姉妹だからに決まってるだろ?」

「そう・・・デスよね」

「千影ちゃんも、四葉ちゃんの事、同じ風に思ってるよ」

「・・・・・・ありがとうございました」

「ふふっ・・・どういたしまして」





12月17日

REVERSE PRIESTESS†REVERSE LOVERS
【千影×花穂】



もっと、抱いて・・・

届かない、呟き。


だから、貴女に抱かれた。

貴女は私を受け入れるだろう。

私は貴女を愛している。

貴女も私を愛している。

だから、そう思っていた。

そう信じる事で納得させ、不安にならないように其れを自分へ押し付けた。

貴女は私を抱いた。

快楽に身を任せ、喘ぐ聲すらも隠す事をせずに貴女を感じた。

其の行為の後、最初に感じたのは自らの望み通りになった事への自己満足だった。

次には、貴女が私を抱いたのは愛情では無いと分かっていた事への切なさ。

同情、憐れみ、欲望。

どれかは分からなかった。

それでも、愛情ではなかった事は分かった。

そして、最後に残ったのは不安だった。

手足のもげた人形の山に投げ捨てられる自分。

其れを表情一つ変えずに見下ろす貴女。

貴女が背を向けて去っていく様子をただ見つめるだけの私。

呼び止めたくても、聲が出せなくて、手も動かせなくて・・・

『捨てないで、捨てないで・・・・・・私を・・・置いて行かないで・・・・・・』

私は貴女の傍に居るだけで良い。

骨董品のように飾られるだけでも構わない。

貴女の性欲を満たす人形になっても構わない。

だから・・・塵のようには扱わないで・・・

捨てないで・・・・・・お願い・・・





12月16日

REVERSE DEATH†REVERSE FORTUNE
【亞里亞×千影】



『天使様が来た・・・』

其の人が私の瞳に映った時、そう思った。

理由なんて求めなかった。

だから、別に絵本で見たような、真っ白な羽根が生えていた訳では無い。

それでも、思った。

倖せを運びに来てくれた。

そう思った。

私の思った事は現実だった。

其の人に付いて行って辿り着いた其処は、望んでいたモノが全て存在した。

十一人もの姉妹に囲まれて、孤独から掛け離れた倖せを感じた。

お屋敷では望む物は全て手に入った。

それでも、本当に求めていたモノは無かった。

だから、其処は私にとって楽園だった。

そして其れはずっと続くと信じていた。

でも・・・

『さようなら・・・可愛い妹達』

そう云って彼女は私達に背を向けた。

其の背中には・・・羽根があった。

世界中の光を全て吸い込むような、漆黒の羽根。

思い浮かんだ其れは記憶の中の其れとは違う。

なのに、やはり『天使』と云う言葉が思い浮かんだ。

やっぱり・・・貴女はそうだったんだね?

『ありがとう・・・・・・さようなら・・・』

私はそう云った。

彼女は背を向けたままだったが、微笑んでいた。

顔は見えないのに、何故だか分かった。

だから私も、笑顔だった。

ありがとう、天使様・・・

次の瞬間、彼女の姿はもう其処には無かった。

その代わりに、十枚の漆黒の羽根が散った。

其の内の一枚が私の頭上へと降りてきた。

手で受け止めようとすると、其れは手に触れる直前で止まった。

そして、空気に溶けるように・・・・・・消えていった。

其の時はもう、私は其の人が存在して居た事さえ憶えて居なかった。





12月15日

REVERSE TOWER†REVERSE JUDGMENT
 【千影×鞠絵】



アレは・・・何時の事だったかな・・・

そう、彼女と初めて今生で逢った時の事。

『君を・・・・・・迎えに来たよ・・・』

私がそう云った時、彼女は明らかに驚いていた。

『其れは・・・違います。私が皆さんに逢いに来たんですよ?』

彼女は憶えていなかった。

何度も私と出会っていると云う事、そう、前世で・・・

何度繰り返しても、私はこの季節に彼女と出会っていた。

そして、悲しい事に何時も私達の別れは死だった・・・

月が三度姿を消しては現れたその夜。

『・・・私、もしかしたら昔に貴女と逢った事があるような気がします・・・』

ああ、忘れていたよ。

君は何時も最初は思い出せないでいたんだったね・・・

それでも、彼女は私と日々を過ごしていくと少しずつ、砂時計の砂が堕ちていく時のようにゆっくりと・・・

そして・・・砂時計が全て時を刻んだ時、運命は繰り返される。

そう、今生でもそうだった。

全て知っていたのに・・・避ける事が出来なかった・・・

彼女は運命を受け入れる時は微笑っていた。

何時もそうだった。

ずっとずっと・・・前世から・・・

決まっていた事だった・・・

私は手の甲を噛み千切った。

赫い液体が露わになった肉から滲み出てくる。

口に残った肉片を其の場に吐き捨てる。

手首を其の液体が伝う。

此れが・・・此れさえなければ・・・・・・こんな運命なんか・・・止められたのに・・・

そして黒い薔薇の花束を目の前の墓石に添え、私は其処から立ち去った。

自らの運命を受け入れる為に・・・

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