1月21日

Miki Piano 【ALL】



もう戻れ無いあの頃。

貴女に逢えた喜び、貴女に逢ってしまった悲しみ。

再び運命が交差する事を願っている。



「ねえねえ、鞠絵ちゃん。何かお話してくれる?」

雛子ちゃんは、無邪気にはしゃぎながら私へと駆け寄って来た。

「ええ、良いですよ」

私がそう云うと、雛子ちゃんは私の座っているソファの隣に座りました。

「わくわく。何話してくれるのかな?」

楽しそうにそう云う雛子ちゃんの表情を見て、私は目を細めました。

「それでは・・・御伽噺を話してあげますね」





ある所に、ピアノが得意なお姫様がいました。

ピアノが得意なお姫様の弾くピアノはとても綺麗で、良くお城の中に綺麗な旋律を響かせていました。

其れは聴く者の心を癒していました。

でも、ある日突然、其のピアノの音は聴こえなくなりました。

ピアノの音はピアノが得意なお姫様の鼓動。

ピアノが得意なお姫様が生きている限り、毎日鳴り、其れが止まったという事は・・・

ピアノが得意なお姫様はもう居なくなってしまいました。

二度とピアノが聴こえなくなってしまう所へ行ってしまったのです。



ある所に、とてもお花が好きな一人の女の子がいました。

とてもお花が好きな女の子はピアノが得意なお姫様のピアノの音を聴くのがとても好きでした。

しかし、音は聴こええなくなり、とてもお花が好きな女の子は大変悲しみました。

次の日、お花が好きな女の子は何時ものようにお花に水をあげ、何時ものようにお花に話し掛けました。

ただ、最後にお花が好きな女の子はこう云いました。

『さようなら』

何時もは、また明日ね、と・・・そう云っていた筈でした。

其の日の正午に、お花が好きな女の子は深い川に向かい、お姫様の居る所へと歩んでいきました。



ある所に、お姫様と仲の良かった、もう一人のとても可愛いお姫様がいました。

とても可愛いお姫様は、ピアノが得意なお姫様に逢いに行ったお花が大好きな女の子の姿を見たのです。

そして、とても可愛いお姫様はおかしくなってしまいました。

其処にとてもお料理の得意な女の子が現れました。

そして、泣き叫ぶとても可愛いお姫様を優しく抱き締め、こう云いました。

『如何したいんですか?』

とても可愛いお姫様は答えました。

『二人の所へ行きたい』

とてもお料理が得意な女の子はニッコリ微笑うと、とても可愛いお姫様と仲良く手を繋ぎました。

そして、崖から空を飛んで、とてもピアノが得意なお姫様達に逢いに行きました。



ある所に、とても勇敢な戦士がいました。

とても勇敢な戦士は、お姫様を守るのが役目でした。

其れは誰かに強制された事ではなく、自身から進んで行った事でした。

しかし、とても勇敢な戦士の思いとは裏腹に、お姫様達は居なくなってしまいました。

とても勇敢な戦士は自分を責め、大変悲しみました。

そして、とても頭の良い発明家を呼び、こう云いました。

『ワタクシは皆様の所へ行きたいのです。だから、お願いします』

とても勇敢な戦士は、とても頭の良い発明家に短剣を渡しました。

とても頭の良い発明家はとても勇敢な戦士の頼み事を断りました。

『私もあの娘達に逢いたいよ。貴女が先に行っちゃったら、誰が此処へ残るの?』

とても頭の良い発明家は渡された短剣で、自分が其処に行く為の道を切り開きました。

とても勇敢な戦士はとても驚き、其の勇気にある意味で尊敬してしまいました。

そして、とても頭の良い発明家の手に握られた短剣を拾い上げ、自分も其処への道を開きました。



ある所に、とてもとても仲の良い二人の女の子がいました。

其の女の子の内の一人は、とても元気な女の子でした。

そして、もう一人は、とても綺麗な女の子でした。

とても元気な女の子は、お花が好きな女の子とも仲が良く、毎日逢いに行っていました。

その日も当たり前のように逢いに行きました。

其処にあったのは、花が全て枯れてしまった花壇だけ。

其の事を、とても元気な女の子は忘れようとしていたのでした。

其処に、とても綺麗な女の子が走ってきました。

『また、来ちゃったのね・・・』

そう呟きました。

そして、泣いているとても元気な女の子を抱き締めました。

『皆に逢いたい?』

とても綺麗な女の子が訊くと、とても元気な女の子は頷きました。

だから二人は、たまたま近くを通り掛った凄い早さで走っていた馬車の前へ飛び出しました。

二人は一緒に皆の所へ行く事が出来ました。



ある所に、とても優秀な探偵がいました。

とても優秀な探偵はとても怖がりでした。

皆に置いていかれるのが怖かったのです。

しかし、皆の所へ行くのも怖かったのです。

とても優秀な探偵はとても優しい錬金術師に頼みました。

『皆に置いて行かれないようにするには如何すれば良いデスか?』

とても優しい錬金術師は、フッと微笑むと、こう云いました。

『誰にでも恐怖はある』

そう云うと、とても優しい錬金術師は水の入った小瓶をとても優秀な探偵に渡しました。

とても優秀な探偵は、とても優しい錬金術師を信じて、其れを飲み干しました。

とても優秀な探偵は次の瞬間には、皆の元へ簡単に辿り着けました。



ある所に、とても無邪気な女の子がいました。

とても無邪気な女の子は、誰よりも可哀想でした。

無邪気さ故に、皆の所へ向かう条件を満たしていながら、向かう事が出来ないのでした。

とても無邪気な女の子は、本を読むのが好きな女の子に話し掛けました。

『皆は何処に行ったのかな?』

『其れは・・・』

本を読むのが大好きな女の子は、戸惑いました。

すると、とても無邪気な女の子の背後に、とても優しい錬金術師が現れました。

手に持っていた煉瓦で、とても無邪気な女の子を皆の所へ送ってあげました。

本を読むのが好きな女の子は驚愕していました。

『後は・・・・・・任せたよ・・・・・・私の役目は・・・此処までだ・・・』

とても優しい錬金術師がそう云うと、とても優しい錬金術師の首は、ポトリ、と落ちてしまいました。

糸の切れた人形のように、首を失った躰は其の場に崩れました。

本を読むのが好きな女の子は、何一つ出来ませんでした。

皆に置いて行かれてしまったのです。

そして、本を読むのが好きな女の子は、とても優しい錬金術師の頼み事を果たそうとしています。

とても無邪気な女の子は、皆の所へ行く途中で道に迷ってしまったのでした。





「思い出しましたか?『とても無邪気な女の子』・・・雛子ちゃん」

「・・・え?」

雛子ちゃんはキョトンとしている。

無邪気というモノ程恐ろしい物は無い。

そう思った。

「貴女は・・・何をしてしまったんですか?」

私が雛子ちゃんの瞳を見つめると、雛子ちゃんは突然ハッとなり、ガタガタと震え始めた。

「ヒナ・・・ヒナ・・・・・・あ・・・ああぁっ・・・」

雛子ちゃんの目は虚ろだ。

何処を見ているのかは全く分からない。

思い出したのだろう。

自分の無邪気さで犯してしまった罪と、事の重大さを・・・

「か・・・階段でふざけて可憐ちゃんを・・・押したら・・・動かなくなっちゃって・・・そ、それで・・・」

雛子ちゃんの表情は真っ青で、口唇は紫色をしていた。

「雛子ちゃん・・・もう、此れ以上無理して思い出さなくて良いんですよ」

私は雛子ちゃんの耳元で囁いた。

すると、雛子ちゃんの頬を泪が伝った。

「ありが・・・とう・・・」

雛子ちゃんの姿は透けていき、やがて背景に溶けていった。





そして、とても無邪気な女の子も皆の所に行く事が出来ました。

一人で残された、本を読むのが好きな女の子はそっと目を閉じました。

その日は、とてもゆっくり眠れそうでした。

本を読むのが好きな女の子は、睡魔に身を任せて、眠りにつきました。

本を読むのが好きな女の子は夢を見ました。

其処には皆がいました。

聴こえてくるピアノの音。

壊れた人形。

セピア色の景色。

色あせた思い出。

ピアノが得意なお姫様。

とてもお花が好きな女の子。

とても元気な女の子。

とても綺麗な女の子。

とても料理が得意な女の子。

とても頭の良い発明家。

とても勇敢な戦士。

とても優秀な探偵。

とても可愛いお姫様。

そして、とても無邪気な女の子。

其処にいる皆はとても倖せそうでした。

だから・・・本を読むのが好きな女の子も、ずっと其処にいる事を心に決めました。

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