牢獄から出られたのは、私が現在最も愛する人が現れたからだった。
女の子は冗談めきながら【死神】と名乗った。
そして、ニッコリと微笑った。
『迎えに来ましたのよ。私の可愛いお姫様』
Prize
生まれて初めて教えて貰った、人を大切だと思う事。
「姫の一番大切な人は、勿論亞里亞ちゃんですのよ!」
牢獄に閉じ込められていた間は・・・一度も人に遠慮をする必要なんて無かった。
『亞里亞さまは何も心配しなくても良いんですよ』
そう云いつけられて育った。
だから最初は今の生活が窮屈だった。
でも、何時の間にかそう感じなくなっていた。
自分の姉妹達を大切だと思い、掛け替えの無いモノだと思った。
そして、人に対してそう思う事を、白雪ちゃんに【愛】だと教わった。
【愛】と云う言葉は知っていた。
だけど、其れが如何云うモノかまでは知らない。
だから、訊いた。
白雪ちゃんは明らかに驚いていた。
でも、直ぐに真面目に教えてくれた。
「【愛】はね、積み木と同じで積み重なっていくんですの。それで、其れを高く積み上げるのがだんだん楽しくなってくるんですのよ」
説明を聞いても、其れが如何云うモノかまでは分からなかった。
けど、亞里亞も自分の積み木が見つかれば良い。
そう思った。
だから、素直に訊く事にした。
また、驚いていた。
今度は感心したような驚き方だった。
その時の白雪ちゃんの表情は永遠に忘れない。
そして、白雪ちゃんは亞里亞の胸にそっと触れた。
「亞里亞ちゃんの積み木はもう、此処に有りますの」
白雪ちゃんはニッコリと、嬉しそうに微笑った。
何故だか、つられて微笑った。
「でも、亞里亞ちゃんのは積み木じゃないかも。もっと・・・綺麗なモノ・・・そう、宝石みたいなモノだと思いますの」
「・・・嫌です」
そう云った亞里亞に、白雪ちゃんはまた驚いていた。
如何して?と云う言葉を堪えているような、出せないような、そんな感じだった。
亞里亞はこう云った。
亞里亞は・・・・・・白雪ちゃんと同じ、積み木が良い。
それはワガママなのだろうか?
また、訊いた。
白雪ちゃんはブンブンと首を左右に振った。
「そんな事無い!そんな事無いんですの!」
如何したの?
亞里亞が白雪ちゃんの嫌な事をしちゃったなら謝るから・・・泣かないで・・・
「ち、違うんですの・・・姫、嬉しくて・・・嬉しくて・・・」
初めて知った。
嬉しくても泣ける事。
如何云う事かも分かる。
だって今、亞里亞は泣いている。
悲しいんじゃない。
とても嬉しい。
白雪ちゃんが如何云う理由で嬉しく思っているのかは分からなかった。
でも、白雪ちゃんが自分の事で泣いてくれているのが嬉しかった。
泣き虫じゃ嫌われてしまうから我慢するけど、嬉しくて泣くのは・・・我慢したくない。
「亞里亞ちゃん、姫は貴女の事好きですの」
好き・・・?
オウムのように訊き返す。
白雪ちゃんは頷いた。
「何時か・・・もう一度同じ事を伝えますの。だからそれだけ、憶えていて欲しいんですの」
はい・・・
両頬を両手で優しく包んでくる白雪ちゃんの瞳に、云い表せない気持ちを憶えた。
此れが・・・【愛】だと良いな。
そう思いながら、白雪ちゃんの躰を抱き締めた。
何故かは分からない。
でも、そうしたかった。
白雪ちゃんの温かい手が頬から背中に移るのを感じながら、【愛】の温かさを知った。
FIN
亞里亞は【愛】を知らなかったと云う事を前提として考えました。 じいやの愛があったのに・・・ 亞里亞が屋敷の事を牢獄と云っているのは、 今の生活が倖せだから其れを振り返ってそう思っているだけです。 【愛】って積み木のように積み重なっていくものだと、緋翠は本気で思っています。 欲を出しすぎると崩れてしまうのも同じだと思うんです。 元々不安定な物ですから、其れを保つのが大事なのだと。 2001.12.20 【最終更新:2001.12.20】 |
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