君がくれたあの日




「闇の書の力、なのはとフェイトはどう思う?」
時空管理局、食堂。
ユーノは徐に口を開いた。
「どう、って・・・「第一級捜索指定遺失物、ロストロギア?」
なのはは首を傾げながら、闇の書について口にする。
「転生機能があって、再生機能があって・・・守護騎士システムがある、だっけ」
「そうだね、其れで合ってる」
手元の参考資料の内容をかなり砕いて照らし合わせながら、私は頷く。
本来魔法を記録しておく為の機能が、改竄によって闇の書と呼ばれる所以になった。
心無いかつての持ち主の欲望によってあるべき姿、そして名前まで変わってしまった。
「可哀想な子だ」
私の言葉になのはとユーノは何も云わずに頷いた。
多分思い浮かべているのは同じ。
祝福の風、リインフォース。
闇の書事件が終わりを告げ、年が明けてから一週間後。
私達は事件の概要と重要参考人について証言書を作成する為、クロノに呼ばれて時空管理局に来ていた。
重要参考人、私達の友達のはやての事だ。
まだ出逢ってから日は浅いけれど、私は彼女がとても良い子だと知っている。
私達が証言する事で彼女の罪が軽くなるのなら、いくらでも証言しよう。
「リインフォースさんは」
なのはは首に下げたレイジングハートを握り締めた。
「持ち主の・・・はやてちゃんの願いを叶えたかっただけなんだよね」
悲しそうな声。
「でも、其の願いを叶えるには・・・」
「他者に多大な被害を齎す事になる」
私の言葉は第三者によって遮られ、最後まで云えなかった。
いや、云う必要は無くなった。
「こんにちは、クロノ君」
顔を上げたなのはは、もう笑っていた。
ああ、強いな。
「やあ。話は聞いてあると思うが、三人には後で証言書の作成をしてもらう事になる」
挨拶も手短に、本題に入るクロノ。
するとユーノは小さく手を上げた。
「クロノ、僕達が証言する必要のある事は何だ?如何すればはやてを助けられる?」
「闇の書の主、八神はやては自らの意思とは関係無く事件に巻き込まれた。それだけ証言してくれれば後は任せるよ」
そう云った後、クロノは大げさに肩を竦ませた。
「時空管理局も馬鹿じゃない。君達が守護騎士と対峙してからの記録は全て取ってある」
「じゃあ、今回もスムーズに進んでるんだね。良かったぁ」
クロノの言葉を聞き、なのはは大きく息を吐いて手足を投げ出した。
そうか。
なのはは私の時も証言してくれたんだ。
「ただ」
一瞬だけ、クロノの表情に影が落ちる。
「ロストロギアを探求する者、畏怖する者、嫌悪する者。ロストロギアには色んな感情が交錯する」
「其れは・・・うん、分かるよ」
母さんが起こした事件の後、時空管理局の嘱託魔導師になってから一生懸命調べたから。
「まあ、何にせよ闇の・・・夜天の書は、今となってはただの破片だ」
「再生の可能性は?」
「無い。防御プログラムは僕達が徹底的に破壊したからな」
ユーノの質問にクロノは答える。
あの時の事を思い出したのか、なのはは俯いた。
闇の書の闇ではなく、リインフォースを破壊した時の事だ。
「大事なものと別れるって、悲しいよね。しなきゃいけないって分かってても、辛い」
なのはの横顔を見ながら、私は母さんの事を思い出した。
いつでも思い浮かぶのは優しかった母さん。
偽りの記憶だったけど、私にとって大切な・・・
「いっぱい残ってるよ、リインフォースがはやてに残してくれた大事なもの・・・家族に、思い出」
「そうだよ、なのは。其れに僕達がはやてと出逢えたのも、リインフォースのお陰かもしれない」
私達四人は母さんの事件があったからこそ出逢えた事もあって、ユーノの言葉には説得力があった。
クロノは腕を組んで、少し嬉しそうな表情で私達のやりとりを見ていた。
「ああ、そうだ。自動再生はしないが、再生させる事は出来る。おそらく八神はやてのデバイスになるんじゃないか」
「デバイス?」
なのははクロノの言葉を復唱する。
「今のところ、はやての今後の扱いはどうなりそうなの?其れに、守護騎士達も」
私は我慢出来ずにクロノに問う。
スムーズにいっているとは云っても、其れははやてだけの話に思えた。
守護騎士達は自らの意思があって行動していたからだ。
「まだ不明だが・・・少なくとも時空管理局の管理下にはおかれる。おそらく、局に協力してもらう事にもなるだろう」
もしかして、其れって・・・
「私の時と同じ?」
「あの時と似ている。フェイトもはやても事件解決に協力してくれた功績は大きいだろうな」
ぼんやりとあの時の事を思い出す。
あの時、私は衝動的に動いていたけど、其れも罪を償う一角になれていたのか。
良かった。
「守護騎士達も?」
「彼らはプログラムによって作られた魔法生命体だ。使い手に左右されるプログラムに善悪を問うのは無意味だ」
「でも・・・」
私は言葉を濁した。
「そう云う事にしておいてくれ。其の方が都合が良いんだ」
「うん」
そう答えざるを得なかった。
守護騎士達の善行を評価するとなると、悪行も評価されなければいけなくなってしまう。
私は彼女達を罪に問いたい訳では無いんだ。
でも、私も・・・作られた存在だから。
「さて」
クロノは時計に目を移し、仕切り直すように云った。
「もうすぐ局員が証言書の作成に来るだろう。あと少しだけ三人で待っていてくれ」
去っていくクロノの後姿を見ながら、私は自分に問う。
私と守護騎士やリインフォース。
一体何が違うのだろう。
人工的に作られて、其れでも意思を持って。
ううん、私に意思はあった?
守護騎士やリインフォースは自分の意思で主の為に行動していた。
其れは悪行ではあったけれど。
信念があった。
でも私は、母さんに褒めて欲しいって、其れだけだった。
「フェイトちゃん、どうしたの?」
名前を呼ばれて私は我に返る。
なのはが私の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「ううん、何でも・・・」
まずい。
「何でも無いよ」
「ふぇ、フェイトちゃん、泣いてるの?」
ああ、ごめん。
驚かせちゃったね。
ちょっと自分が情けなかっただけ。
今もなのはの目を気にしてしまっている。
此処に来たのも、自分の意思じゃないのかもしれない。
でも、大事なんだ。
なのはも、はやても、ユーノも、クロノも。
みんな、みんな。
「ごめんね」



FIN


今現在夏なのに冬の話です。
後日談はあっても事件直後の話は無かった気がするので、自分的にまとめてみました。
フェイトとヴォルケンリッターとリインフォースは近い存在だと思います。
近いけどそれぞれにあって、それぞれに無いものがあるんじゃないでしょうか。
2008/08/19 【最終更新:2008/08/19】

     
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