アオイイロ




「なぁ、テスタロッサ」
「どうしたの、ヴィータ?」
夏の真ん中、日が昇ると炎暑のある日。
エアコンの涼しさに惹かれてヴィータとザフィーラが遊びに来た時の事だった。
「テスタロッサとなのはってどっちの方が強いんだ?」
扇風機の電源を入れつつ、何の興味も無さそうにヴィータは問う。
エアコンついてるのに扇風機もつけると風邪ひくよ。
じゃなくて。
「どっち、って・・・」
私は一瞬考えてから、言葉に詰まった。
勝率的には私。
でも、最後に戦った時、私はなのはに見事に大敗した。
「えっと、なのは?」
「なんで疑問形なんだよ。お前バトルマニアだろー」
ヴィータは扇風機に向かって声を発する。
自分の声がデバイスの様になるのを面白がって、歌う様に声を伸ばす。
「ま、マニアじゃないよ」
どう説明したら良いんだろう・・・
「え・・・本当に戦った事無いのか?」
ヴィータは本当に意外そうな表情を私に向ける。
私はザフィーラに視線で助け舟を出した。
ザフィーラは目を閉じながらも、耳を此方に向けてひくつかせている。
尻尾まで振って、彼もこの話にちょっと興味ありそうだ。
「無い訳じゃないけど・・・」
「じゃあどっちが勝ったんだ?」
ヴィータの興味は完全に扇風機から私に逸れ、喰い付いてくる。
「ザフィーラ〜・・・」
視線に気付いてくれないので、思わず名前を呼ぶ。
「ヴィータ、テスタロッサは困っているぞ」
流石は盾の守護獣、頼りになる。
『ありがとう』
私はザフィーラに念話でお礼を云っておく。
「っわーったよ。じゃあなのはの家行くぞ!」
念話の返事が返ってくるより先に、ヴィータが声を上げた。
そのままリードを手に、部屋の出口の方に向かう。
「引っ張るな」
ザフィーラは仕方無さそうにゆっくり体を起こして震わせた。
眠そうにあくびをしながらヴィータの後ろにつく。
「なのはにも訊くの?」
今度はなのはのところに行くのか。
なのはは暑さにだれてるんだろうなぁ。
「ちげーよ、戦ってもらうんだよ」
「え?あ、頑張ってね」
話の流れが分からないけど、いってらっしゃい、と手を振る。
「・・・?テスタロッサとだぞ?」
「え・・・」
沈黙の中、蝉の鳴き声が近くに聞こえた。



「かくかくしかじかで・・・」
「はー、暑いねー」
高町家の玄関先。
此処に至るまでの私の話を聞いた上で、だるそうになのはは呟いた。
「てめぇ戦う気無いだろ!」
ヴィータはリードを振り回しつつ怒る。
なのはを前にすると本当に元気だなー。
「テスタロッサ、リードを外してくれ・・・」
ザフィーラに頼まれ、私はグイグイと引っ張られているリードを外してあげる。
「戦う気なんてないよ、暑いし・・・」
「んだとー!やんのかコラ!」
ヴィータはリードを持った手をなのはに向かって勢い良く振り上げる。
繋げる先の無いリードがぶらぶらと大きく揺れる。
ザフィーラからリード外しておいて良かった・・・
「だからやらないって云ってるでしょー・・・ちょっと待ってね」
そう云い、なのはは玄関の中に消えていった。
「あーぁ・・・もういいや、帰るぞ、ザフィーラ」
無気力ななのはに呆れた様子で、ヴィータは頭を抑えた。
「待たないのか?」
身震いし、毛並みを整えていたザフィーラはヴィータに問う。
「頑固だろ、あいつ」
ヴィータは高町家の玄関を指差して云った。
「確かに」
「確かに」
思わず同意したら、ザフィーラと同じ事を云ってしまった。
「では、我々は失礼する」
「またな、テスタロッサ」
あ、本当に帰るんだ。
「う、うん」
なのはは待っててって云ってたけど・・・
でもまた話ぶり返されても大変だし・・・
「またね」
「おう」
ヴィータは手を振り、背を向けて歩き出した。
あー・・・暑いなぁ。
こうやって夏を過ごすのは初めてだっけ。
母さんの事、闇の書事件、それに・・・
「お待たせー・・・あれ?」
玄関が開き、なのはが顔を出した。
「おかえり、なのは」
私の言葉に頷き、キョロキョロと辺りを見回すなのは。
「帰っちゃったみたい」
此処からだと二人の後姿がまだ見える。
なのはは私の横まで駆け寄り、何度か口を開閉させたが、大きく息を吐いて項垂れた。
「どうしたの?」
「呼び戻そうと思ったけど、大きな声出すと疲れそうだから止めた・・・」
「そっか」
私は笑う。
「暑いね」
「うん」
「フェイトちゃん」
なのはは徐に私の名前を呼んだ。
そして、冗談の様に微笑む。
「やる?」
「え・・・」
何を?
「戦闘」
問う前に答えられた。
戦う?
私が、なのはと?
まさか。
「やらないよ」
私は苦笑しながら答える。
「そっか」
少し残念そうに、なのはは空を見上げた。
つられて私も空を仰ぐ。
目に沁みる様な晴天。
雲が形を変えずに緩やかに移動している。
「いつだっけな」
なのはは遠い昔を思い出す様に、ぽつりと呟く。
「空を飛ぶのが当たり前になったの」
そう云いながら雲と雲の隙間を、指でなぞる。
あ、何だろう、この気持ち。
「ジュエルシード探し?」
「ううん、違うと思う。多分、戦うようになってから」
複雑だ。
なのはの考えてる事知りたいのに。
「戦うの、好き?」
そうか。
空を飛ぶのも、戦うのも、私はいつからやっていたのか分からないんだ。
「どうだろう・・・でも、空を飛ぶのは好きだよ」
でも、やっぱり私は私なんだね。
だから。
空から視線を下ろすと、なのはと目が合う。
「じゃあ、私は戦うより一緒に飛びたいな」
なのはは手を打ち、表情を明るくした。
「あ、そうか!」
嬉しそうに、何度も頷く。
「そうだよ」
なのはが空を飛ぶのが好きなのは、きっとなのはと空と似ているからだと思う。
私はそれに憧れるんだ。
空に。
なのはに。
「でも今日は暑いから・・・上がっていってくれるかな、さっき準備したんだけど・・・」
「うん、良いよ。今日は時空管理局のお仕事も休みだから・・・」
今度一緒に空を飛ぼう。
いつでも良いんだ。
だって、私達はいつでも飛ぶ事が出来るから。
ずっとそう思ってたから。
当たり前の様に飛べるって。
ねえ、なのは。



FIN


今現在冬なのに夏の話です。
空大好きです、空。
また空を題材にした小説書きたいです。
2008/02/22 【最終更新:2008/02/22】

     
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