完全な事実を成立させるのに、必要なものなんか無い。
完全な事実を成立させるには、不必要な事実を取り除く必要がある。
しかし、【運命の輪】を歪ませた元凶、不必要な物、それが自分の愛する人だとしたら・・・
道を選ぶ事すら叶わずに、何処に辿り着くのだろうか・・・?
PERFECT CRIME
遠い夢か幻とも思える過去の中で、私の魂に呪いを掛けた女がいた。
其れが、今生で私の姉として生を受けた。
其れは幾千の内の好機だったのか、復讐を遮る偶々の誤算だったのか、それとも其の女が死ぬ直前に残した手段だったのか・・・
理由を考えても、何も変わらない。
今有るのは、親族にその忌々しい魂の転生した女が存在すると云う事だった。
しかし、その女は前世の事を全て忘れていた。
若しくは全て知っているが、其れを隠しているだけなのか・・・
全て確かめる為に今此処に立っている。
此処まで前世にて生涯を誓った人と分け合った魂を繋げて来た。
そして、その復讐を果たす為に今私は此処に居る。
その女はこの扉の向こうでヒュプノスの生み出す幻想に身を委ねている。
あどけない寝顔で自らの願望、若しくは過去の出来事を幻像として目にしているのだろう。
前世の記憶を混沌とした情報の集合体として読み取っている可能性も無くは無い。
私が復讐を遮る物を開くと、漆黒の闇が征服していた部屋に光が差し込む。
数秒で部屋の暗さに目が慣れる。
私は彼女が横になっている寝台の直ぐ傍へ立った。
そして、彼女の細い首に左手を伸ばした。
冷えた手に彼女の体温がやけに温かく感じ、彼女がまだ息をしている事を確認する。
今右手の人差し指と中指に挟んでいる細い純銀の針を其の首へと刺せば、彼女は抵抗も、聲をあげる事も出来ずに、二度と目を覚ます事は無くなるだろう。
私は右手を彼女の首へと近づけた。
しかし、小指が彼女の肌に触れると、何故だか自分の其の行動への躊躇いが生まれた。
前世で私へ呪いの言葉を紡いだ女。
愛しい人と私を引き離した女。
私の命を奪った女。
全て前世が纏わり付いて来ていた。
・・・・・・前世?
私はこの少女・・・咲耶くんの事を恨んでいるのか?
・・・・・・違う・・・
私は・・・ただ自己保存する事のみを求め、鎖に繋がれた生に執着していた。
前世での惨劇を今生の怨念と結びつける事で自分を納得させる結末まで辿り着かせていた。
歪んでいるのは【運命】ではなく【運命の輪】
【運命の輪】の意味する物は【心の中の秩序】
心の秩序が歪む、即ち心が歪む事。
運命を狂わせるのは各々の行動、思考、感情。
心はそれ等全てを司り、管理し、其れ故時に本質を変貌させる。
己の抑制可能な感情を超越させ、【運命の輪】を歪ませた時から全て狂った。
彼女を愛した時から狂っていた。
同性愛や近親相姦などの禁忌を破りながらも見付け出した愛と云う尊い感情を陰形する事。
歪んだ結果を消却する答えは、やはり歪んでいた。
一人の存在し得ない魔女を探し出す為に全ての女性を焼き払おうした人物と同じように、如何なる義性も気に留めず自らの心を掻き毟る。
心を侵してまで、自らを否定してまで其れを選択したのは、前世まで自分の魂が築いて来たその事実とプライドを喪失させない為だった。
下らない。
下らない下らないくだらないクダラナイクダラナイ・・・
自己への愛情から発展させる事を拒み、其の代償として彼女への感情と自らへの憤りを感じている。
愛情を自分の中から追い出すような自虐的な行為に気付く事無く、歪んだ輪を幾度と無く繰り返して来た。
結局の所、如何なんだ?
私の生には意味が有ったのか?
「千影・・・」
突然自分の名前を呼ばれ、私は躰をビクッと震わせた。
聲の主は・・・そう、私の【運命の輪】を狂わせた源、咲耶くんだった。
「如何したの・・・?私に何か用事?」
「いや・・・・・・・・・何でも・・・無いよ」
私は自分の先程までの行動を無かった物にする為に、部屋の扉を開けて外に歩き出そうとした。
咲耶くんは目覚めが悪い方なので、今ならまだ寝惚けて直ぐに忘れてくれるかもしれないと考えたからだ。
しかし・・・・・・
「ねえ・・・」
私を呼び止めた咲耶くんの声は寝起きの所為か、聲が色っぽく聴こえる。
そして、彼女の方を振り向いた瞬間、私は驚愕する事になった。
彼女は微笑んでいた。
そして、こう云った。
「私を・・・・・・殺さないの?」
私は逃げるように扉を閉めた。
最後に見た咲耶くんの表情を思い出し、私の全身から水を掛けられたようにドッと汗が噴き出て来た。
【何か】が這い上がって来るような吐き気のする感覚と同時に、今まで感じた事の無い程の恐怖が襲い掛かって来た。
咲耶くんが見せた笑みは・・・・・・前世で私を死に陥れる瞬間に見せた其れと類似していた。
いや・・・全てが彼女の手の平で展開される喜劇のように、彼女の思い通りに事が運んだ時に見せた表情、其の物だった。
今にも彼女のさも愉快そうな聲が聴こえて来そうだったからだ。
私は床に崩れそうになるのを必死で堪え、直ぐに其の場を去った。
自室の扉を勢い良く開け、直ぐに扉を閉めて背中を凭れ掛からせる。
両足が自分の躰を支える事を放棄したかのように頼りなく震えている。
心が、躰が前世を否定しても・・・
【運命】が私を放してくれないのだろうか・・・?
――――― クスクス・・・
耳の直ぐ後ろで誰かの笑い声が聴こえたような気がした・・・・・・
FIN
緋翠の、初めて起承転結がちゃんと有る小説でしたι ちなみにコレは11月の人気投票で一番だったので書きました。 咲耶が前世で千影に呪いを掛けたと云う設定。 勿論【愛しい人】を奪い合う為に。 で、千影は【愛しい人】と結ばれない運命を四、五回は繰り返して来た。 其れを変える事が出来ない事が呪い。 復讐を果たす為なら如何なる手段も選ばなかった千影だが、それも前世までだった。 今生で千影は咲耶を愛してしまった。 まあ、其処まで行かなくても、恨む事が出来なくなっていた。 此処までが緋翠の決めた設定です。 咲耶の意図と前世の記憶の有無は、其々お好きなようにご想像くださいι 2001.12.13 【最終更新:2001.12.13】 |
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