HELLO MY LIFE






二月十一日。
四葉が初めて自分意思で日本に立った日。
四葉に家族が十一人も増えた日。
倖せと不安に溢れた生活を夢見ながら、四葉は一つの眩い素晴らしい物を見つけました。
其れは四葉の知らなかった物、望んでいた物。





「はぁ〜・・・此処が四葉の姉チャマ達が住んでいる街デスか〜」
四葉は感嘆しながら呟いた。
其れにしても、飛行機は苦手デス。
アーリーモーニング・ティーが無かったので、眠気が覚めなくて、まだ少し眠い。
ふと、自分が何処に行けば良いのか分からなくなっていた事に気が付く。
確か鞄の中にグランパから貰った地図がある筈・・・
鞄の中をおぼろげな記憶を頼りに探ってみました。
むっ・・・むぅ・・・見つからないデス・・・
四葉は鞄の中をガチャガチャと色んな物が音が立つ程掻き混ぜる。
案の定奥の方で、探偵日記やら虫眼鏡やらの下敷きになっていた。
そして、鞄の中は其れが見つかった時には既にグチャグチャだった。
ついでに云うと、地図もグチャグチャに・・・
四葉は其の地図の皺を伸ばしながら、チェキ。
ん〜っと・・・此処は商店街・・・デスよね?
周りを見渡してみれば視界に入るのは、八百屋や花屋、魚屋。
商店街の他に何があるのでしょうか。
そもそも、そう云うのが揃っているところを商店街と云うんデスよね。
自分の呟きの疑問を自分で解決して、再び地図に視線を移す。
地図の上部には丸があり、其の中に噴水と英語で書いてある。
方位磁針は此方が北だから・・・・・・あ、あれがそうデスね・・・って事は、此方デス!
そうと決まったらダッシュでゴーデス!
四葉はやっと地図が把握できた事に舞い上がって歩道を真っ直ぐに走った。
・・・が、直ぐに何かに足を取られた。
「わわっ・・・わわわぁっ!」
走っていた速度が速かった所為もあって、受け身も取れずに思いっきりこけてしまった。
バサッと大きな音がして、何かをぶち撒いてしまった。
「アイタタタタ・・・」
「あの・・・大丈夫ですか?」
地面と顔を見合わせている四葉の後ろから、心配そうな聲が聞こえてきた。
は、恥ずかしいよぅ・・・
四葉は自分の顔が真っ赤になるのが分かった。
「だ、大丈夫デス・・・」
そう云いながら、四葉は自力で顔を上げた。
「・・・って、ああぁっ!」
ぜ、全然大丈夫じゃないデス!!
四葉が躓いた物、其れは花屋さんの店先に置かれたチューリップの花の入った大きな籠でした。
あぅ・・・お店の人に怒られるデス・・・
そう思った時、視界に一人の女性が目に入った。
その人は・・・薄桃色の袴を着ていました。
ロンドンでは写真でしか見る事の出来ないような服を着た其の人に、四葉の視線は釘付けになった。
「気を付けてくださいね。大きなお怪我でもしたら大変ですわ」
そう云った聲は、四葉が転んだ時に大丈夫か訊いてきた聲と同じ聲だった。
そして、其の女の人は四葉が散らかしてしまった花を拾い始めた。
あれ?
店員さん・・・じゃない?
でも拾ってる・・・
「あっ!よ、四葉だけで拾いますから!」
四葉はハッとして自分でもオーバーだと思うほど手を振った。
四葉が自分だけで拾うと云ったが、彼女は拾い続けている。
手伝う為に屈みながらチラッと女の人に視線を移すと、彼女は女の人と云うよりも女の子と云える外見だった。
両手がチューリップで一杯になると、籠の中に入れた。
「あぅ・・・・・・ごめんなさい・・・」
四葉は申し訳無い聲を出した。
「どういたしまして」
女の人はニッコリと微笑んだ。
日本は良い人がいるところデスね〜♪
表面とは反対に、四葉は内心とても喜んでいた。
そして、四葉も同じように、両手一杯に集めたチューリップを籠の中に入れる。
その時、店員さんがレジから出てきた。
ま、マズイです・・・怒られちゃう〜・・・
そう思い、片付ける手を早めた。
店員さんは女の子だった。
日本に来てから、パッと見で人の年齢が判断出来ないようだ。
今まで逢った事のある日本人は、四葉と同い年だと云う事が前提だったので、先入観で年齢は分かっていた。
其れも原因だが何よりの原因は、初めて姉妹に逢えると云う事に目が向き過ぎていたからだろう。
今度からは気を付けてくださいね、と其れだけを店員さんは云った。
「あ、アイムソーリー・・・」
四葉が小さく謝るのと同時に、四葉を助けてくれた女の人は最後のチューリップの束を籠の中へ戻した。
そして店員さんは、どうぞ、と云って女の人に花束を渡した。
女の人はお金を渡すと、四葉達に背を向ける。
「あっ・・・」
何か云わなければ。
そう思った。
「本当にありがとうございます!」
大声でそう云うと、女の人は振り返り、微笑んだ。
まるで、天使のようだった。





まだ打った腰が痛い。
何処かで休みます・・・
周りを見渡してみると、丁度良く休める場所は公園と噴水があった。
「チェッキ、チッキチェキッ!」
虫眼鏡を取り出し、目の前に翳す。
丸い円の中に捕らえるのは二人の女の子。
幼稚園くらいの子と、四葉と同い年くらいの子。
なんとなく・・・なんとなく目を引かれた。
時間にして数秒だっただろうか。
ボーっと見つめていると、ふと四葉と同い年くらいの子と目が合った。
「あ・・・」
一瞬戸惑う。
遠くから見つめられて、其の手には虫眼鏡。
あまり良い気はしていないと思う。
四葉は意を決して、少しだけ早足に駆け寄った。
「ハロー!・・・じゃなかった、こんにちは!」
思い切り頭を下げ、オジギと云うものをする。
数秒の沈黙。
四葉は頭を上げつつ、二人の顔色を伺った。
二人はどこか似た顔立ちを揃えて呆気に取られた表情にし、四葉を見つめていた。
「こんにちはっ!」
ちっちゃな方の子はまんまるくした目を細め、四葉に負けず劣らず大きな聲で挨拶をしてくれた。
「こ、こんにちは・・・」
釣られた様に、もう一人の子も微笑み、四葉に挨拶をする。
あぁっ、何か良いデスね!
挨拶。
あ、弁解しなきゃ。
「四葉、日本が色々物珍しくてジーッと見てしまって・・・ソーリーです」
喋っていくにつれて聲の大きさが小さくなっていく。
うぅ・・・やっぱり四葉は変な子デス。
すると、二人はちょっとだけ顔を見合わせてから、笑った。
「あ、良いよ。気にしてないから・・・って云うのはちょっと嘘だけど、私も君の事ちょっと気になったんだ」
やっぱり悪目立ちしてたのかも・・・
どんよりと雨雲が自分を囲んでる気になってくる。
「其れはそうと、如何して皆、着物を着てないんデスか?」
豆電球が飛んだ気がした。
そう、ずっと気になっていた事・・・着物の人が全然居ない。
さっき花屋さんで優しくしてくれた人以外、誰も。
「ど、如何してって云われても・・・ねえ?」
大きな方の子は苦笑いをした。
四葉、何か変な質問しちゃったんデスか?
「お着物は七五三の時に着るのー!」
ちっちゃな方の子が右腕を空に向けて伸ばし、元気良く云った。
あ、やっぱり着るんだ!
「イギリスの学校では一番熱心にジャパンについて勉強してましたが・・・実際来てみると全然想像と違うんデスねぇ〜」
四葉は虫眼鏡を構えてキョロキョロと辺りを見回す。
家の立ち並び、人々の言葉、格好。
何もかもが想像と違う。
「へぇ・・・四葉ちゃん、イギリスから来たの?」
「そうなんデス!・・・って、何で四葉の名前を知ってるデスか!?」
ビックリしながら、四葉は虫眼鏡を大きな方の子に近付けた。
すると、ちっちゃな方の子も真似して手を大きな方の子に伸ばす。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
大きな方の子は頬を人差し指で軽く掻き、目だけで明後日の方向を向いた。
むむっ、これは!
「エスパーデスね!」
「・・・エスパー?」
ちっちゃな方の子は不思議そうに首を傾げた。
「う・・・ま、まあ、そう云う事で良いよ」
凄い。
凄い!
「ジャパンはミステリーが沢山なんデスね〜♪」
四葉は喜びのあまりくるくると回った。
日本に来て出逢った同い年くらいの子がマジシャンだったなんて!
四葉はラッキーデス。
四葉はハッピーデス!
「アハハッ・・・」
困った様に大きな方の子は苦笑する。
四葉がマジシャンだったら一日の時間をずーっと伸ばしちゃうのに。
そうすればずっと遊んでいられる。
ずーっと眠っていられる。
そんな事をふと思った。
時間・・・あ!
「ところで、今何時か分かりますか?」
「え、うん、ちょっと待って・・・」
四葉が問うと、二人は鞄を探り出した。
「じゃーん!」
ちっちゃな方の子が効果音と共に素早く懐中時計を取り出し、蓋を開けてこっちに向けてくれた。
「どれどれ・・・も、もうこんな時間ですか!?」
懐中時計の針を見て、四葉は汗がダラダラと出てきた。
日本人は時間に厳しいデス!
早速新しいファミリーに嫌われちゃいます・・・
「そうだ、私も用事あるんだ。もうちょっと時間は空いてるけど・・・」
大きな方の子が変わった形の携帯電話携帯電話を取り出したところで、四葉は無意識に横から覗き込もうとすると・・・
「あ、恥ずかしいから見ちゃ駄目っ!・・・四葉ちゃんは今日何かあるの?」
携帯電話の画面を隠されてしまいました。
一瞬だけ見えたのは、女の子がいっぱい写っていた写真の待ち受け。
とても楽しそうな、羨ましい感じデス。
「秘密、デス♪とっても嬉しい事なのデス!それじゃあ、四葉はもう行きます」
「またねー!」
ちっちゃい子は四葉に向かって大きく手を振った。
同じ様に手を振りながら、四葉は二人に背を向けた。
「・・・あっ、そうだ!ちょっと待って!」
歩き出そうと思った直後、突然呼び止められる。
「チェキッ?何デスか?」
動いてないけど急ブレーキ。
振り向くと、少し気恥ずかしそうな表情で大きな方の子に問われた。
「春から此方の学校に通うの?」
学校かぁ・・・
良いところだと良いな。
「あ、ハイ、そうデス」
一瞬考え込みかけながら、四葉は頷く。
「若草と白並木って云う、学校が二つあるんだけど、何方に行くか分かる?」
「いえ・・・其れは未だ・・・」
家族と一緒に歩いて学校まで通うつもり。
そうすれば、毎日の退屈な時間が何よりも素晴らしい一時になると思っている。
だから、家族と一緒の学校が良い。
「そっか・・・なら良いや。また逢えたら良いね」
「ハイ!チェキようなら〜!」
四葉の言葉に、大きな方の子は首を傾げた。
「・・・?あ、さようなら!」
一瞬だけ悩んで、意味を理解したのか、小さく手を振った。
意味なんて無いんデスけどね♪
駆け足でアスファルトの商店街まで走ってから、少しだけ振り返る。
其処には二人が微笑んでいて。
何だか、安心した。
ずっと、ずっと、其処に居てくれるような・・・そんな訳無いのに。
でもまた逢える様なそんな気がした。





「・・・あら?」
「ええっ!?」
四葉はくしゃくしゃの地図と、其の人の持っている地図が同じだと云う事に気が付いた。
「「まさか・・・」」
同じ言葉が重なる。
嬉しい期待は多分、正解。
「・・・のようですわね」
溜息を吐きながら、彼女は笑った。
四葉も嬉しい。
顔がにやついて仕方ない。
だって、だって。
「偶然ってミステリーデスね!」
こんなに素敵な人が四葉のお姉さんなんデスから!
「此れからヨロシクオネガイします、姉チャマ!」
「あ、姉チャマ・・・?」
姉チャマは首を傾げた。
今日は頻繁に首を傾げる人に逢うなぁ♪
四葉の姉チャマ!
イギリスではずっと寂しかった。
家族がいるって、そう聞いた言葉を信じてずっと楽しみにしていた。
「キャー!姉チャマー!姉チャマー!」
四葉は姉チャマの腰に抱き付く。
凄いです、大和撫子デス!
「ちょっ・・・どうなされたのですか、四葉ちゃん?」
姉チャマは顔を真っ赤にして、私の頭に触れた。
「ずーっと姉チャマに逢いたかったんデス!あぁん、もう四葉倖せデスッ!あっ、四葉のネームは四葉デス。呼び方は姉チャマに任せますネ」
四葉は高鳴る鼓動を抑えながら、早口で自己紹介をする。
早く姉チャマの名前を聞きたいから。
姉チャマは咳払いをし、凛とした聲で自分の名前を云った。
「春歌と申します。宜しくお願いしますわね、四葉ちゃん」
わーわーわー。
春歌って云うんだ!
素敵な名前!
もう二度と忘れないであろう名前を、四葉は心の中で抱き締めた。
「クスッ・・・」
姉チャマは面白そうに微笑んだ。
よ、四葉変な顔してたかなっ!?
・・・してたかも。
ずっと驚きと喜びで口を開いていた様な気がしてきた。
ああ、恥ずかしい。
でも、そんな驚きと喜びは、まだ終わらなかった。





「おいひぃデスー!」
こんなに美味しい食べ物が世界にあったなんて!
四葉は美味しい料理を頬張りながら、倖せの絶頂の中に居た。
白雪ちゃんと云う子が作ったものらしい。
其の子も姉妹だとか・・・
いっぱい家族が増えました!
三人、四人、五人!
でももっといっぱいいるみたい。
「嬉しそうだね、四葉ちゃん」
「はい、鈴凛ちゃん!」
鈴凛ちゃん。
公園で出逢った、私の家族。
全然知らなかったけど、お互いに気になってた。
家族だって聞いて、何となく納得してしまいました。
「まだ帰ってきてないんだけど、凄い素敵な人がいるよ」
「ふぇ?」
春巻きおいし〜・・・じゃなくって!
「素敵な人?」
「そう、素敵な人。格好良いんだ・・・其れで、凄く・・・」
其の先は聞き取れなかった。
家の中に響くチャイムの音。
姉チャマ・・・ううん、春歌ちゃんが玄関に早足で駆けていく。
「あ、帰ってきたみたい。でもこう云う騒がしいの苦手みたいだから、すぐ自分の部屋行っちゃうんだけどね」
「そうなんデスか・・・」
話している横で、既に廊下を歩いて遠ざかっていく音が聞こえた。
ちょっと残念デス。
でも後でちゃんと挨拶に行かなくちゃ!
待っててね、素敵な人!
四葉はまだ知らなかった。
其の素敵な人にはもう、出逢っているのだと云う事に・・・





FIN

     

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