2月19日 |
透明なマニキュア moonlit mix |
今日もまた、爪にマニキュアを塗る。 透明で、誰も気付かないようなマニキュア。 昨日も学校に塗っていったけれど、誰も気付かなかった。 きっと皆気が付かないんだろうな。 だって、爪にマニキュアを塗った可憐ですら、忘れていたんだよ。 お昼休みの始めに気が付いて、少し悲しくなっちゃったんだよ。 家に帰ってきて、可憐は悲しくてマニキュアを何度も重ねて塗った。 でも、全然色は出なくて、代わりに泪が出た。 乾ききっていないマニキュアの上に、泪の雫が落ちた。 しまった、と思い、ポリッシュリムーバーを含ませたコットンで覆う。 こんなんじゃダメ。 もっと大人になりたい。 でも。 マニキュアの色すら自分に合うように選べない可憐が、大人になんてなれるのかな・・・ 可憐は爪の両端から、コットンを摘み上げた。 コットンについたマニキュアは、やはり透明で見えない。 残ったマニキュアを拭き取ると、可憐はマニキュアを小箱にしまった。 ・・・其の日の夜。 落ち込んでいる可憐に、咲耶ちゃんは云ってくれた。 「あら、可憐ちゃん。綺麗なマニキュアね。とっても似合ってるわよ」 嬉しすぎて、有難うって云えなくて、可憐は照れて笑う。 マニキュアを褒めて貰えたのもあるけれど、気付いて貰えた事が一番嬉しかった。 前屈みになって私の手を覗き込んた咲耶ちゃんの爪にも、マニキュアが塗ってあった。 コーラルピンクで、淡くオレンジの乗ったマニキュア。 可憐のとは違って、とても綺麗で優しく見えた。 そして、其れは咲耶ちゃんにとても似合っていた。 「咲耶ちゃんこそ、似合ってるよ」 可憐は心に思った通りそう云うと、咲耶ちゃんは爪を可憐に向けて見せてくれた。 「ウフフッ、有難う。此れね、私が何時も使っているブランドの新作なのよ」 可憐は直ぐに、其のブランドを聞いた。 同じ物を使いたいと思ったから。 何でかは自分でも分かっている。 出来る限り咲耶ちゃんに近付きたい。 其れが答え。 そして今日、可憐は咲耶ちゃんにマニキュアについて、色々教えてもらう約束をした。 時間があったらマニキュア以外も教えてあげる、と咲耶ちゃんは云ってくれた。 とても嬉しい。 とても嬉しいのだけれど。 でも、困った。 可憐が欲しいのは、マニキュアの知識だけじゃない。 どんな色が可憐に似合うのか。 何が可憐なのか。 其れが知りたい。 ふと、時計に目を移す。 ・・・あと三十分で咲耶ちゃんが此処に来る。 とても楽しみで、心が躍る。 可憐は再びマニキュアを手に取る。 不自然な塗り残しを見つけ、更に重ねて塗った。 消毒液とポリッシュリムーバーとコットン。 可憐がマニキュアを塗る時に使っているのは其れだけ。 だけど、咲耶ちゃんが云うには其れだけでは少ないらしい。 何が足らないのだろう。 足らない? ・・・もしかして。 未だ今の可憐では無理なんじゃないかな。 マニキュアの色とか、道具とか、そう云うのじゃなくて。 咲耶ちゃんのようになるのは、無理なんじゃないだろうか。 一時的な諦めの感情。 だけど、悲しくは無い。 だって。 だって、咲耶ちゃんは此のマニキュアを似合っていると云ってくれた。 其の透明なマニキュアを、可憐は自分に合うように出来るだろうか。 いや、合うようにしたい。 いつか、きっと。 可憐は今、大切な何かに気が付いたような気がする。 ・・・其の時、玄関のチャイムが鳴った。 可憐は玄関へ急いだ。 透明なマニキュアを爪に塗った可憐は、嬉しそうに微笑んでいた。 FIN |
【あとがき】タイトル通りに『透明なマニキュア』の続きです。 |
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